作者 多和田葉子
「さくらのそのにっぽん」について 俳優さんたちへ
ひらがなは、目をつぶって手探りで日本語のかたちを障りながら進みます。まるで遠いところからやってきた旅人のように。いつも見慣れている日本語の文章では漢字とかなが混ざっています。漢字の意味を道標にして、ひらがなはその「繋ぎ」としてしか意識せずに読んでいくことが多いと思います。漢字は発音しなくても意味が分かります。たとえば「飛行場」という漢字を見ると、発音してみるまでもなく意味が分かってしまいます。まるで記号か絵でも見るように、目が「飛行場」という単語を一瞬のうちに絵としてとらえ、意味に置き換えてしまうのです。でも「ひこうじょう」とひらがなで書いてあった場合は、ちょっと立ち止まるのではないでしょうか。読めるけれども馴染みの薄い文字を読むように、子供が絵本を音読するように、注意深く、期待に満ちて、ほんの少しとまどいながら、「ひこうじょう」と発音してみることになるかもしれません。「ひ」という響きの中に何が聞こえるでしょうか。まだ見たことのない世界への飛躍でしょうか。「こう」で滑り、「じょう」で摩擦しながら上昇していくかもしれません。(多和田葉子)
こちらもお見のがしなく!第9回 恒例 シアターXカイカバレット 12月1日(水)19:00 前売3,500円 多和田葉子自身の朗読とベルリンでも人気のジャズピアニスト 高瀬アキとのセッション。 |